先日、NHKの「英雄たちの選択 スペシャル 大江戸エンタメ革命」という番組を観ました。今年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の“蔦重(つたじゅう)”こと「蔦屋重三郎」を時代背景とともに取り上げていました。
時代は18世紀の江戸、老中は田沼意次。江戸の町民文化が花開き、脂の乗った時代、蔦重は文化の発信地「吉原」を舞台に遊郭の「ガイドブック」を刊行して話題を呼び、版元、編集者として江戸文化を大いに盛り上げました。ところがその後、松平定信の時代になると「寛政の改革」のもと質素倹約が奨励され、江戸文化の魅力を規制する動きが強まり、蔦重は窮地に陥ります。そんな厳しい規制の中で見つけたのは、歌麿らが描く「美人画」。花魁(おいらん)や茶屋の町娘を「ブロマイド」として描いたもので再起を図ります。幕府はそれでも版元である蔦重に圧力をかけます。それに対し苦渋の選択で、蔦重は版元の名や絵師の名も消した木版画を世に出しました。
寛政の改革は5年間続き、松平定信の老中辞任で幕を降ろします。そのあと蔦重が目を付けたのは、芝居小屋の「役者絵」。写楽らが描く今までの美人画とは違う写実的な、いわば不細工な浮世絵を出しましたが、役者の欠点的な特徴までもが強調される作風が不評のまま、蔦重は寛政9年に48歳で生涯を終えました。
しかし、その蔦重の版元からは次の時代を彩った版元がいくつも誕生します。また後世、写実的で不細工な絵はヨーロッパの地で評価が高まります。蔦重には時代の先が見えていたのでしょう。その時代、お上の規制を巧みに乗り越え、職人たちの生活を守り、華やかな江戸文化の立役者となったのが“蔦重”こと「蔦屋重三郎」でした。
私は以前から、NHKの大河ドラマは現代を反映している番組だと思っています。今の世は、令和の脂が乗った時代だと思います。飽食の時代である一方、海外の影響や我が国の政権で我々の生活が変わる時代、その中でいかに知恵を使い生き残れるか、蔦重の時代と似ていると感じます。
また、蔦重はすべて「紙」で文化を伝えました。永い間、文化は紙で伝えられ「紙は文化のバロメーター」と言われてきました。しかし今ではペーパーレスの時代となり、その言葉も危うくなりつつあります。現に新聞や書籍の発行部数は減るばかりです。デジタルやディスプレイ上でしか表現できない文化、それが次の時代に残せるのか、疑問に思います。
私はインターネットで読む文字は「見る」と表現します。新聞や書籍では、それこそ「読む」です。「見る」と「読む」では大きな違いです。私は紙文化の「復興」ではなく、紙文化の「繁栄」を祈念したいと思います。
追伸 2024年の新聞用紙の生産量は5年前に比べると約4割も減少しています。ある知り合いの紙屋さんは「このままでいいのか!」と嘆き、紙文化が伝承されることを心から願っておられました。